制定40周年のワシントン条約が、サメ類、樹木、ヘビ類、カメ類などの野生動植物に関する重大な決断のときを迎える
翻訳協力:津金 麻由美、校正協力:柳川さやか
2013年5月9日 CITES Secretary-General's statements
今年で制定40周年となるCITES(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」、通称「ワシントン条約」)が、サメ類、樹木、ヘビ類、カメ類、その他の野生動植物に関する重大な決断のときを迎える。
条約履行に関する権能、資金調達、法執行、生計、科学、持続可能性、トレーサビリティ、協働を促進するガイドライン、ツールキット、アクションプラン、基準が採択されたのだ。
2013年3月にバンコクで開催された第16回ワシントン条約締約国会議(CITES CoP16)は、ワシントン条約制定後40年の歴史における決定的な瞬間として後に振り返られるだろう。
条約の交渉およびその後の履行には多大な労力が費やされるが、CoP16ではワシントン条約締約国178カ国が、貴重な野生動植物及び材木等の林産物の商取引における合法性、持続可能性、トレーサビリティの確保に尽力することに合意した。
多くの陸ガメ・海ガメやそのほかの広範囲におよ動植物と同様に、新たな材木数百種をワシントン条約の対象種とすることが全会一致で可決された。
重要なのは、可決に必要とされる全体の2/3を超える投票によってサメ5種およびマンタ・エイの全種までもがワシントン条約の取引規制の範疇に置かれたことである。
国際コミュニティはこの実用的で効力のある合意を最大限に活用することにより、この地球上の海と森林を持続させ得る道筋を明確にした。
締約国は国連持続可能な開発会議(UNCSD、またはリオ+20)の要求にも留意し、商取引、環境、開発の交差に立つ国際的な合意として機能するワシントン条約の重要性を認識した[1]。
●資金調達
アジアアフリカ開発銀行、地球環境ファシリティ(GEF)、世界銀行、国連開発計画(UNDP)のすべてが、ワシントン条約の履行における投資拡大の必要性を認識したうえでCoP16に参加した。
世界銀行は、トラの違法取引に立ち向かうビジネスモデルを示すグローバル・タイガー・イニシアティブを介してもCoP16に参加した。
ワシントン条約加盟国は、地球環境ファシリティを同条約の資金メカニズムとする可能性を更に模索することを決定した。
さらに、締約国はワシントン条約事務局に対し、species-based component((仮)種を基本とした構成要素という考え方)の強化によって、GEF-6における地球環境ファシリティ生物多様性戦略を促進するため、地球環境ファシリティ事務局およびCBD(生物多様性条約)事務局との連携を継続すること、ならびに、地球環境ファシリティが生物多様性戦略を考案する時期を検討するためワシントン条約の優先事項を提示することを求めた。
ワシントン条約事務局長は、今回の締約国会議の重大な決定に最後まで従うよう、地球環境ファシリティ事務局長および生物多様性条約事務局長に文書を送った。
この連携の結果と今後取るべき最良の手段について、締約国は2016年開催の第17回締約国会議(CoP17)で検討する。
●より良い基準、より明確なルール、実用的な手引き
CoP16で採択された歴史上重要な条項は以下の通り。
・持続可能な商取引を目的とした科学的に確固とした基準(ワシントン条約では‘制限なし(non-detriment findings)'と呼ばれる)を定めるための手引きの提供;
・国際水域にて捕獲・採取された海洋生物種に対し証明書を発給すべき国の決定(ワシントン条約では'海からの持ち込み(introduction from the sea)'と呼ばれる);
・ワシントン条約の決定が僻地コミュニティの暮らしに与える影響の評価;
・より高度な電子的許可、ワシントン条約仮想大学等を介した能力育成の促進、生きた野生動植物の空輸以外の安全な輸送の確保、ヘビ、陸棲・海棲のカメ、チョウザメ、サイガ、沈香木類(ジンコウボク)などの一連の種の保全管理の強化
NGOコミュニティと同様に締約国が大いに注目した議題として、ワシントン条約動植物委員会委員の公平性、客観性、独立性を著しく損なう潜在的な可能性のある、利害の不一致に対処する方法の決定が挙げられる。
・協働
締約国の主導のもと計画した協働(synergies)は、複数の実用的な手順で進行した。
何よりもまず、ワシントン条約のStrategic Vision((仮)戦略構想)が2013年から2020年に延長されたことが挙げられる。
また、Strategic Visionを修正し、関連するリオ+20の成果を履行し、愛知生物多様性目標(生物多様性条約の第10回締約国会議で採択された)の達成に大きく貢献するなど、戦略計画2011-2020(Strategic Plan for Biodiversity 2011-2020)の達成を目標とする「貢献」についても言及するようにした。
このように他機関による多国間の環境協定によって定められた世界的な目標にワシントン条約が言及したのは今回が初めてである。
協働は地球環境ファシリティ、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)、生物多様性条約の世界植物保全戦略(Global Strategy for Plant Conservation)に関する決定を通じても進行した。
さらに、スイスが提案した決議案が採択され、生物多様性に関する条約において、締約国は各国が着目する協働、連携、協力を強化することが奨励され、その他のパートナーはワシントン条約の首尾一貫した履行を国家レベルで促進することが奨励された。
ワシントン条約常設委員会は、ワシントン条約とほかの生物多様性に関する条約の協働、連携、協力を促進する追加の選択肢をいかにして模索し、私達が望む未来 'The Future We Want.'(パラグフ89)がどのように進展するかをCoP17で報告するための作業を開始した。
最後に、ワシントン条約の共同イニシアティブである野生生物犯罪と闘う国際コンソーシアム(ICCWC)に、国際刑事警察機構(INTERPOL)、国連薬物犯罪事務所(UNODC)、世界銀行、世界税関機構から非常に強力な支援が寄せられた[2]。
●法執行
4月の記事[3]で述べたように、CITESは深刻な野生生物犯罪を阻止するために前例のないレベルでの国際的な連携を呼び掛けている。これは象牙や角を目的としたゾウやサイの密猟を阻止するために、これまで取り組んでこなかった過去との相違点を示す結果である。
このような国際的責務は各国のアクションに移行されつつあり、2016年開催の次回締約国会議までの進捗がワシントン条約常設委員会によって見直しされる。
これらの決定の完全な履行は違法な野生生物取引を撲滅させる鍵となる。
CoP16に関連して開催された野生生物犯罪と闘う国際コンソーシアムの幾つかのイベントにおいて、各国政府の大臣らは国境付近の野生生物犯罪[4]について意見を交わした。
また今回初めて、地域の法執行への理解および協力の強化を促進するworld's Wildlife Enforcement Networks((仮)世界野生動植物保護法執行ネットワーク)についても話し合いが持たれた[5]。
CoP16の第三者的立場から、アジア開発銀行は、アジア諸国から裁判長、司法長官、警察の上官、税関吏、その他の行政執行官を召集し、注意喚起および国境付近の野生生物犯罪を根絶するための訓練を提供した。
●貴重な材木
アジア、中央アメリカ、アフリカ(マダガスカル)からのシタン(紫檀)およびコクタン(黒檀)の国際取引は今後ワシントン条約によって規制される。
貴重な熱帯硬材の急速な需要増によって、伐採の規制がないため既に希少となった種の個体数の激減に対する懸案が深刻になっている。
主催国であるタイを含む当該国では、法的拘束力のあるワシントン条約の規制は、価値ある資源をより持続可能に管理する一助になると確信している。
材木種に対するこれらすべての提案が、非常に緊迫した長期の交渉の末に全会一致で採択された。
新しくいくつかの種が附属書に掲載されたことに伴った国内の活動を支援するするため、マダガスカルのアクションプランが採択された。
幾つかの活動の遂行を締約国に対して更に指示するその他の決定は、新たな附属書掲載種に対する活動の透明かつ健全な実行を保証するだろう。
ワシントン条約と国際熱帯木材機関(ITTO)の共同プログラム[6]は、附属書掲載の材木種の規制の履行に対する受け入れの強化を検討する各国の試みを継続して支援するだろう。
この共同プログラムのこれまでの達成点および将来的な計画についての二次的なイベントも開催された。
ドイツは、同プログラムの第2フェーズのために、既に予算が組まれた750万ユーロを上限として、EUを主とした他の締約国および民間セクターからさらに資金を提供することが可能であると発表した。
今後4年間、ワシントン条約と国際熱帯木材機関は連携を継続することで、最も価値のあるワシントン条約附属書掲載の樹木種(材木種だけでなく沈香木のなかま、および薬用樹種も含む)の規制の履行を進めていく。
木製楽器の国境を越えた移動を簡素化する手段に関してもCoP16にて対処された。
ワシントン条約附属書掲載の(ブラジリアン・ローズウッドなどのような)貴重な樹木や、その他の樹木によって作られた楽器を持って旅する音楽家および団体を対象とした、ワシントン条約による特別な手順が承認された結果、国外旅行の度に許可を得る必要がなくなった。
●サメ類およびマンタ類
閉会目前の本会議においてサメ類4種についての議論の再開を求める声が上がり、会議は最終日に最高潮を迎えたが、採決に必要な締約国1/3の支持が得られなかった。
上記およびその他のアクションにより、ワシントン条約締約国は第1委員会(the Conference's Committee I、科学分野を取り扱う委員会)によって週の始めに下された決定の中に、商業価値のあるサメ類5種の附属書IIへの掲載が含まれていることを確認した。
ヨゴレ(Carcharhinus longimanus)、アカシュモクザメ(Sphyrma lewini)、ヒラシュモクザメ(Sphyrna mokarran)、シロシュモクザメ(Sphyrna zigaena)、ニシネズミザメ(Lamna nasus)は、その高い価値を持つヒレと、稀ではあるが食肉のため過剰に漁獲されている。
複数の地域を回遊するサメ類およびマンタ類の附属書掲載の提案および決定を支援するためにできた幅広い提携により、締約国は、国際連合食糧農業機関(FAO)のAdvisory Expert Panel((仮)専門家諮問委員会)、ワシントン条約事務局、国際自然保護連合(IUCN)/トラフィックなどから科学技術分野でのアドバイスを受ることができるという利点がある。
これらの決定を実行するには準備にやや時間を要すると認識したため、締約国は附属書Ⅱ改正の効力発生を18カ月後(2014年9月14日)まで後ろ倒しすることを決定した。
効力発生後は、掲載種の国際取引が持続可能かつ合法な捕獲・採取であることをワシントン条約によって許可される必要があり、ワシントン条約事務局への報告が必要となる。
ブラジルは、附属書改正の効力発生に先駆けて決議履行に取り組むためカリブ海から南アメリカの締約国による地域会合を主催する意思を表明した。
ブラジルによる会合の計画を支援して以来、ワシントン条約事務局は関連するブラジルの代表者と面会してきた。
EU加盟国およびクロアチアを代表して、アイルランドはサメ類、マンタ類などの海洋生物の新たな附属書掲載種について、ワシントン条約の規制を履行すべき発展途上国を支援するため、ワシントン条約事務局に120万ユーロに相当する実行パッケージを付与することを表明した。
資金の最適な配分について欧州委員会とともに話し合いが既に進められている。
これらの附属書改正はワシントン条約が海洋生物種に関与したという観点で意義のある出来事であり、同条約が漁業協定を補完する手段として、各国の漁業登録、漁業当局、関連コード、プログラム、またはアクションプランを定める国際的かつ地域レベルの組織として機能することが可能になるだろう。
●世界野生生物の日と南アフリカにおけるワシントン条約第17回締約国会議
締約国は3月3日(1973年にワシントン条約が署名された日)を世界野生生物の日とすることを全会一致で宣言した。
国連デーの一つとして公布するよう国連総会は求められるだろう。
最終的な公式の活動として、締約国は2016年の第17回締約国会議の南アフリカによる主催の申し出を快諾した。
[1]IISD Guest Article 13:1972年のストックホルム会議からリオ+20まで- Back to the future 、2012年6月6日
[2]ワシントン条約情報メモ:野生生物犯罪と闘う国際コンソーシアム、2011年4月
[3]IISD Guest Article 17: CITES CoP16、2013年バンコク: 野生生物犯罪と闘う ‘転換の時期'、 2013年4月15日
[4] CITES COP16: 野生動植物の国際組織犯罪の根絶に関する大臣および高官による円卓会議での議長総括、2013年3月3日-14日
[5] CITESプレスリリース:野生動植物保護法執行ネットワークの第1回国際会議において、野生動植物の国際組織犯罪を根絶するため国境を越えた協力の重要性が強調された、 2013年3月7日
[6]樹木種における国際熱帯木材機関とワシントン条約の共同プログラム
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