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2013年9月15日 (日)

東南アジアに押し寄せる森林破壊の波

違法伐採と、とどまることを知らない経済成長が、ベトナムとその近隣諸国の森林にもたらす代償はあまりにも大きく壊滅的だ。過去15年間だけでも1,700種におよぶ種が発見された豊富な生物多様性を誇るこの地域で、現在大きな脅威となっている。

翻訳協力:山田尚子、校正協力:岩崎友理子

2013年5月20日 YALE Environment 360

1968年、ケサンではベトナム戦争の中でも最も激しい戦闘が繰り広げられた。6か月にわたる戦闘中、米空軍の特別部隊は、空中から枯葉剤を散布した。ランチハンド作戦(枯葉作戦)と呼ばれたこの作戦のモットーは、「森の運命を握るのは君らだ」であった。

米軍は、目標達成に至らなかったかもしれない。しかし、このランチハンド作戦で米軍がなし得なかったことを今、急速に発展しているベトナムと近隣諸国が達成しようとしている。それは、インドシナ半島の森林資源と生物多様性の大規模な破壊である。

現在のケサンは、驚くほど穏やかな町だ。かつての海兵隊基地に散乱していた金属片も、すでにスクラップ業者に回収されて跡形もない。戦場であった場所には、緑豊かなコーヒー畑が広がり、米海兵隊と陸軍兵士のライフラインであった滑走路が赤褐色の細長いラインでその痕跡を残すのみである。

ケサンの町周辺に広がる森林の運命は、今現在ベトナムと、タイ、ラオス、カンボジア、ミャンマーを含むメコン川流域(大メコン圏)に起きている事象を顕著に示す良い例だ。手つかずの大森林が残る地域もまだあるが、森林破壊のペースは目まぐるしく、過去15年だけでも1,700種以上が発見されたという、豊富な生物多様性を持つこの地域を脅かしている。ベトナムにおける森林の伐採のほとんどは家具の輸出用であり、伐採された跡地はコーヒー栽培に使われる。ゼロからスタートしたベトナムのコーヒー生産は、今後10年もしないうちに世界第2位へとランクアップするだろう。増加する製材所の需要を満たす目的でほとんどの森林が伐採されてしまったため、現在は国境を越えたラオスやカンボジアの森林を違法に伐採する事態へと発展している。

こうした違法伐採の拡大に加え、人口急増に伴う農地の拡大、ダムの建設およびインフラ整備プロジェクトなどによる影響も森林の消失に拍車をかけている。

自然保護団体のWWF(世界自然保護基金)は今月初め、こうした森林消失の範囲を明らかにした。それによると、ベトナム戦争終戦間近の1973年から2009年までの間に、メコン川流域では森林全体の1/3が消失したとされている。このうち最も破壊が進んでいる地域はベトナムとタイであり、WWFの衛星写真分析から、森林の43%が既に失われていることが明らかになった。

WWFは、最低でも3.2平方kmの広さを持ち、人間の手が加えられていない森林を天然林と定義づけているが、インドシナ半島に占める天然林の範囲が、過去40年で70%から20%に減少していることを突き止めた。そしてDan Drollette, Jr.氏も破壊の度合いをこの目で見ている。それは、彼がこの地域の生物多様性に関する本のリサーチのため、ベトナムを数カ月旅していた時だった。中国との国境に近い山間部のサパ村周辺までハイキングに出かけた際、緑色の木々で覆われたベトナムで最も高い山地の山腹に、数マイルにわたって伸びる赤土の斜面がむき出しになっているのを目撃した。そこは議論を醸し出している新しいダム建設のために森林が伐採された場所であり、その地域に暮らす多くのダオ民族の人々は、ダムのために住む場所を奪われたのである。

また、ハノイから数時間かけて到着した紅河デルタのある場所でDan Drollette, Jr.氏と野生生物学者が見たものは、近隣のセメント工場に搬入するために粉砕されてしまった丘の残骸だった。そこは、かつて石灰質を豊富に含有していた場所である。その工場があるのは、コシジロラングールと呼ばれる、葉を食用とする野生のリーフモンキーが最後の居住区とするヴァンロン自然保護区のすぐ近くである。

ベトナムとその隣接諸国で研究活動をしている科学者と自然保護論者らは、この地域の状況は現在岐路にあるという。WWFによると、森林破壊のペースがこのまま続くとすると、2030年までに「メコン川流域で、多くの野生生物が生存可能な環境を備える森林の割合はたった14%にまで減少する」とのことだ。これに対し、残された森林の自然の恵みを活用する―それは、まだ森林が50%を占めている現状を活かすということであるが、維持可能な方向性を探り、妥当な経済発展と生物多様性の保護を目指していく、というのがもう一方の道である。

ベトナムに残されている森林は、まだ存在を知られていない生物の宝庫で、言わば「ロスト・ワールド」である。ここでは過去15年間、1週間に平均して2種類の新種が科学者らによって発見されており、その生物多様性の豊富さがうかがえる。例えば、ジャワサイ、ホエジカ類、スナドリネコ、イタチアナグマ類、スナメリ、カワゴンドウ、メコンオオナマズ、サオラなどである。サオラの見た目はヤギのようだが、ウシ科の動物だ。

ハノイにある大学の生物学者であるVo Quy氏は、インドシナ半島保全の第一人者であり、多数の未確認生物が発見されるのを待ち構えていると確信している。「我々科学者が知りえないことを知っているのは、地元の住民たちなのです」と同氏は述べた。

しかし、ベトナムは面積127,240平方マイルで、ドイツよりほんの少し小さいだけなのだが、その状況は急速に変化している。Vo Coy氏の言葉を借りると、その地域の野生生物を保護することに関して言えば、「平和は戦争よりも危険」なのである。

1990年代半ばの経済改革を経て外界への扉を開いたベトナムの経済は、過去10年で平均年7%の経済成長率を見せている。この地域にある他国同様、国としては若くかつ人口増加も著しい。現在は1979年から1/3の増加を見せ、9千万人に到達した。(クックフォン国立公園はベトナム初の国立公園で、様々な自然保護活動の拠点であるが、この周辺地域の家庭における子どもの平均数は6.7人である。)

大型ネコ科動物保護団体のPantheraの最高責任者であり、野生生物学者のAlan Rabinowitz氏は、ベトナムの急成長をこう表現した。「ベトナムは、小さい中国がアンフェタミン(合成覚醒剤の一種)でハイになっている状態です」。

経済の急成長がもたらすものはプラス面だけではない。例えば、家具産業はベトナムの輸出産業のトップ5に入る主要産業だが、同時に森林破壊の最大の原因となっている。(これまでのところ、ベトナムの家具製品の最大輸出先は米国で、その輸出量は2位の日本のほぼ3倍となっている。アジア諸国からの家具輸入はすでに米国のマーケットの70%を占めており、これは過去10年以内で4,000%の増加である。)

ベトナムは、中国以上に労働組合の力が弱くまた賃金も低い。加えて労働法自体も少なく、国が力を入れている産業分野への優遇的補助金、特定の企業に対する優遇税措置などがある。そのため、中国の家具製造業者は、香港に近い工業都市からベトナムへと既に拠点を移している。

ベトナムの製材所においては、およそ80%の木材が近隣のラオスやカンボジアからのものである。ロンドンを拠点とする環境保護グループEIA(Environmental Investigation Agency)の内部調査によれば、木材の多くは、そのように法律やその強制力も緩い国々の現地の保護地区でカットされ、輸出規制を避けて違法に国境を越えるのだという。

2008年のEIAによるドキュメンタリーフィルムでは、メコン川流域における木材産業の大規模な森林破壊の様子がおさめられている。

これはEIAの調査員が内部調査中に家具工場を訪れ、ひそかに撮影したフィルムである。そこでは、「違法なネットワークが現在、ラオスの消えゆく森林資源を目当てにしている」様子が明らかになっている。

しかしEIAによれば、家具の輸出はベトナムにとって年間24億ドルを生み出す大産業であるため、当局も見て見ぬふりをしているとのことだ。多かれ少なかれ、経済成長には常に汚職がつきまとう。

クックフォン国立公園のEndangered Primate Rescue Center((仮)絶滅危惧霊長類救護センター)のセンター長であり、野生生物学者であるTilo Nadler氏は、カンボジアの国境で熱帯産の硬材を荷台に積んだトラックの列に遭遇したことがある。トラックは、ダナンおよびホーチミン近郊の製材所へ向かう途中だった。同氏によれば、彼の住む国境からは遠いエリアにおいても、森林保護に対する地元住民の意識は非常に低く、レンジャーが違法伐採者を逮捕した3年前には、レンジャーの駐在所を暴徒が襲う事件が起きている。レンジャーの賃金は低いうえに地位も確立していない、と同氏は言う。

こうした大規模な破壊行為が、世界有数の生物多様性に与える影響は重大だ。WWFのレポートは非常に的を射たもので、トラ、アジアゾウ、カワゴンドウ、サオラなどの地域を代表する種の生存数、居住範囲などが大幅に縮小していると指摘している。かつては数千頭見られたサオラは数百頭になっている。アジアゾウは数百頭から数十頭へと減少した。レンジャーにとってクックフォン国立公園内をうろつくトラの姿はおなじみであったが、高速道路が公園内を2つに分断してからはそれも見られなくなった。そして2011年、ジャワサイがベトナムで絶滅したことが確認された。

Nadler氏、生物学者のVo Quy氏、WWFおよびその他の専門家などが指摘しているように、急激に進行した森林破壊と野生生物の生息区域減少を回復させ、メコン川流域の森林と生物多様性の保護を実現させる時間はまだ残っている。「個人的に見通しは明るいと思っていますが、それは、政府からこうした地域を保護するための十分な支援が得られた場合の話です」とNadler氏は言う。また、ほかの危機に瀕している地域を救うために、生物学者がダム(たとえばサパのダムなど)に反対することをあきらめなくてはならないなどというケースも考えられ、難しい選択を迫られる場合もあるだろうとしている。

WWFは、地域の行政機関が、既に指定されている公園や保護地区に対して、より良い保護対策を取る必要があるとしている。それは、「保護地区の大多数は単に名前だけ」という状況が生じているためだ。また、違法な森林伐採と野放しになっている土地開拓に対しても、地方行政機関が抑制を始めなければ、「動植物の生息地となる天然林、居住区の自然などは保護地区外であり、事実上除外されてしまう」と主張している。

ベトナム政府は、森林再生への取り組みを宣言して手がけているものの、その実際は、主に単一種の植林で、これでは一部の限られた生物多様性が再生するのみである、と科学者らは言っている。

成功のカギを握るのは地域の住民参加だ。ヴァンロン公園がその例で、地域コミュニティの先導により誕生した。ヴァンロン公園の近隣住民が自分らの土地を自分らで保護する意識とプライドを持ち、そこに建設されたエコツーリズムリゾートの利権を所有している。

東南アジアにおいては、長期間維持可能な自然保護プロジェクトの実施には、民衆の支援が不可欠なのである。これが得られなければ、中央政府からの森林伐採に関する正式な指示や制限は、意味を成さない。

ベトナムの有名なことわざがある。
「皇帝の命令は村の門前まで」

http://e360.yale.edu/feature/a_plague_of_deforestation_sweeps_across_southeast_asia/2652/

 

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