新たな研究が生態系に関するIUCNレッドリストの重要性を示す
2013年5月8日 IUCN International News Release
翻訳協力:村田 幸代、校正協力:久保 直子
環境リスクを評価する新たな国際基準となるIUCN Red List of Ecosystems(生態系に関するIUCNレッドリスト)が、六大陸、三海洋にまたがる20の生態系で試験的に使用された。
「どの生態系がうまく保たれていて、どの生態系が異常をきたしているのかを知ることにより、政府、産業界、地域社会が持続的可能な環境管理をするために賢い投資決定をすることができます」とDavid Keith氏は言う。
彼はPublic Library of Science社が刊行する雑誌、PLoS ONEに掲載されたこの研究のリーダーだ。
新しいリスク評価方法の開発は、環境に関する報告に一貫性をもたせることができる点で、大きな科学的躍進であると言える。
生態系に関するIUCNレッドリストは、影響力のある基準である絶滅危惧種に関するIUCNレッドリストを手本にして、ひとつの生態系が危急、絶滅危惧、あるいは絶滅寸前なのかを判断するものだ。
「私たちは世界中の陸上、淡水、海の生態系すべてにわたって適用できるリスク評価の方法を、初めて手に入れたのです」と、共同執筆者であるメルボルン大学のEmily Nicholson氏は語る。
「我々の目標は2025年までに世界の全生態系を評価し、大陸や海盆といった広大な地理学的区域においても評価を続けることです。しかしながら、PLoS ONEに掲載された論文の事例研究で説明したとおり、我々のデータベースは地方自治体、国、あるいは生態系タイプ別レベルで行われた調査にも適用するように設定されています」と、生態系に関するIUCNレッドリストプロジェクトのリーダー、Jon Paul Rodriguez氏は伝える。
僻地の山岳であるヴェネズエラのテプイ(テーブルマウンテンの現地語)の生態系は、調査によると崩壊の危険性は低いという評価基準に入った。
その正反対なのは中央アジアのアラル海の生態系で1980年代から90年代の間に崩壊している。
Australian Wetlands, Rivers and Landscapes Centre((仮)オーストラリア湿地・河川・景観センター)の理事で、研究の共同執筆者であるRichard Kingsford氏は「アラル海の評価から学んだ教訓を厳粛に受け止めます」と述べる。
「多くの種が永遠に失われただけでなく、生態系の崩壊は社会経済的な破綻をももたらしました」。
アラル海の漁業および水運業は破滅し、そのうえ干上がった海底から起きる砂塵嵐によって呼吸器や消化器の病気がますます増え、平均寿命が短くなっている。
オーストラリアの8つの生態系は試験的に評価され、上述の両極端な例の間の状態であるという結果だった。
これらの生態系の中には、すでにすごい勢いで崩壊へむかっているものもある一方で、その脅威が初期の段階であるものについては、生態系の多様性や機能を維持するための方針や管理方法を決めることで、比較的容易に対処できるものもある。
「適切な環境管理は、生態系の機能を保持するために不可欠です。私たちの経済、社会の安寧は生物多様性や生態系の機能の上に成り立っています」と、IUCN’s Ecosystem Management Programme ((仮)IUCN生態系管理プログラム)代表のEdmund Barrow氏は言う。
「特に発展途上国においてはきわめて重要です」。
生態系に関するIUCNレッドリストは、それをこの地球の限りある資源をよりよく管理するために活用することのできる人々、たとえば経済の専門家、地域コミュニティ、地方や国家機関にとって、なんでも揃う百貨店のような包括的なものになることを期待されている。
生態系に関するIUCNレッドリストのさらに詳しい情報は以下を参照。
http://www.iucnredlistofecosystems.org/
http://www.iucn.org/about/union/commissions/cem/cem_work/tg_red_list/
ニュースソース
http://www.iucn.org/news_homepage/?12945/New-study-shows-importance-of-IUCNs-Red-List-of-Ecosystems
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