粘着物質排出禁止を求めて粘り強い団結を
翻訳協力:石川 美和、校正協力:野中 祐子
2013年4月19日 The Wildlife Trust News
野生生物保護の主要3組織が、何百羽もの海鳥を死なせた物質の排出禁止を求めて団結した。
英国東海岸沿いで、海洋汚染により何百羽もの海鳥がもがき苦しんだり死亡したりという惨事の詳細が徐々に明らかになってきている。
この事故を機にRSPB(英国王立鳥類保護協会)、RSPCA(英国王立動物虐待防止協会)、そしてThe Wildlife Trusts(野生生物トラスト)は、イギリスの運輸大臣注1のStephen Hammond氏へ、船からのポリイソブテン(PIB)排出がもたらす危機拡大に警鐘を鳴らす書簡を送ることにした。
これら3つの慈善団体は海洋でのPIB排出を禁止するため、大臣に合成物質の国際的な再分類を推進する上で主導権を握らせようとしている。PIBは羽毛を覆ってしまうため、海鳥の移動を制限し、採食行動を妨げ、救いようのない状態に陥らせる。
今年、PIBに関連する2件の汚染事故が西南海岸で報告された。さらに調査によると、ここ数年で、ほかに少なくとも3つの事故がおき、ヨーロッパ沿岸のあちこちで大多数の海鳥の死を招いたことが明らかになっている。3団体は請願にあたり、今後4年間でPIBの国際輸送が40%増加するという予測についても言及した。この化学物質は、潤滑剤やサッカーボールのブラダー(ボールの中の空気を閉じ込めているゴムからできた弾性の球体)、チューインガムや食品包装用フィルムを含むさまざまな製品に使用され、また多様な油の粘度を調整するのにも使用される。
海で船のタンクを洗う際、PIBを排出することが合法であっても、これらの許認可は特定の実験条件下で行われた試験に基づいたものである。不思議なことに、この物質が浮くとか沈むとかいったことは調べられているが、この物質が海水に混じる際何が起きるのかということについて考慮がなされていない。PIBは、海では糊のようなべとべとした状態に変わり、鳥の羽を覆って、鳥が潜水して食料を探すのを妨げる。そのほか、PIBの合法的な排出によるより海洋環境への長期的な影響はほとんどわかっていない。
RSPBの海洋政策の担当役員Alec Taylor氏はこう語った。
「この物質は、何千羽もの海鳥の生命を奪った致死物質で、多くの海鳥に長くまとわりつき死の苦しみを与えました。我々の海へ、いかなる量でもこの物質を排出することが合法であるというのは、正しいはずがありません」。
RSPCAは、サマセット州にあるWest Hatch wildlife centreで何百羽もの鳥の手当てを行った。RSPCAのCEOであるGavin Grant氏はこう語った。
「この致死物質の海洋投棄はやめるべきです。2月の最初の事故以降、あちこちのセンターに相当数の鳥がとてもかわいそうな状態で到着したのを見ただけで胸がつぶれそうでした。このようなことがすぐまた起こったことは許せませんし、受け入れ難いことです」。
野生生物トラストのLiving Seasの代表Joan Edwards氏はこう語った。
「死んでしまったり、死にかけたりしている海鳥は、我々がこの物質を不適切に管理してきたことによる、目に見える最も明らかな犠牲者でしょう。海洋生物の生命維持システムのほかの部分への影響は、おそらく同様に拡大しつつあり、そしてより深刻になってきているでしょう。将来こういった災害を最小限にするためには、この物質をしっかりと管理すべきで、それにより、故意に違反した場合は責任を問われることになります」。
RSPBとRSPCA、野生生物トラストはStephen Hammond大臣に、MARPOL Convention(1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書、通称マルポール条約)でのPIBの危険度について再検討を求める書簡を、International Maritime Organization(国際海事機関)へ提出するよう嘆願している。マルポール条約では、船のタンクを海で洗う際のPIB排出は合法とされている。
この問題は社会的関心をおおいに引き寄せ、社会活動グループのひとつである38 Degrees は政府に行動を促すe-action(デジタル署名活動)を始動した一方、別のグループであるAvaazの請願書にはここ4日間で2,000人の署名が寄せられた。
編集者メモ
・2月の第一週、サマセット州トーントンのRSPCAの施設であるWest Hatch wildlife centreに、ドーセット近郊南部の沿岸に打ち上げられて発見された何百羽もの海鳥、主にguillemots(ウミバト類)が、後にPIBと判明するネバネバの粘着物質で汚染され連れて来られた。RSPCAの職員たちはできる限り多くの鳥たちを救助したが、それ以上の数の鳥はすでに浜で死んでいた。
・2ヵ月後の4月、遠く西はMevagissey、Plymouth、Looe、Whitsandなどの湾で、複数の浜で鳥が被害に遭う同様の事故があった。この鳥たちはやはりPIBにまみれて見つかった。
・West Hatch wildlife centreの職員は鳥のケアにずっと取り組んできた。彼らは当初、通常の石鹸水で鳥をきれいにしようと試みたが、粘着物質は除去できなかった。その後使用したマーガリンが、粘着物質の除去においてはるかに効果的だった。
注1:イギリス運輸省には4人の大臣がおり、Stephen Hammond氏は、その中のParlimentary Under Secretary of Stateという、4番目の地位の大臣です。
http://www.wildlifetrusts.org/news/2013/04/19/sticking-together-calling-ban-gluey-discharge
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