スマトラサイの保護
2013年3月15日 IUCN News
翻訳協力:野中 祐子 校正協力:中嶌 歩
スマトラサイ(Sumatran Rhinoceros/Dicerorhinus sumatrensis)は、推定生息数が200頭を下回りさらに急激に減少していることから、絶滅から救うための緊急な対応が必要となっている。
スマトラサイは、地球上に2000万年前からいる二角の毛サイの中で、現存する最も体が小さいサイで、IUCN(International Union for Conservation of Nature/国際自然保護連合)のレッドリストで絶滅危惧IA類として記載されている。
IUCNの専門委員会のひとつであるSSC(Species Survival Commission/種の保存委員会)は、2013年3月31日から4月4日までの期間、シンガポールにおいてSumatran Rhino Crisis Summit(SRCS)を開催し、スマトラサイの現状と現行の保全計画の報告を行い、対応が必要な重要課題の確認する。そしてスマトラサイを絶滅から救うために必要な明確かつ迅速な対応を行うために必要とされる、新しい世界規模の保全計画に関わる全てのステークホルダーが結集する。
特に、サイが絶滅に瀕しているインドネシアのスマトラ島とマレーシアのボルネオ島サバ州における最後の野生個体群が大きな焦点となるであろう。
サイの専門家や保護活動家以外のステークホルダーも参加するこの会議は、世界的な注目を集め、サイを救うために今後5年間にわたっての最小必要費用とされる3000万ユーロ(約39億円/1ユーロ=129.87円4月20日付レート)の募金収集の目標達成を促進させると期待されている。さらにこの会議は、サイの保護に関する会議を、専門家によるイベントという枠を超えた、地球規模の会議へとシフトさせるであろう。
国際自然保護連合の SSCの委員長であるSimon N. Stuart氏はこう述べる。
「スマトラサイの危機的状況に関する深刻な懸念が世界中で取り上げられており、主導的立場である専門家たちは、新しい協力的対応措置を取らなければ、スマトラサイの絶滅は時間の問題だろう、という見解で一致しています。インドネシアとマレーシア両政府がSRCSでの議論、決議や提言に積極的にかかわることが重要と思われます。この大切な種を絶滅から救うためには、政府、NGOそしてその他多くの専門家による一致団結が必要です。」
インドネシアとマレーシア両国の政府及びNGOの代表者に加え、スマトラサイの保護、繁殖および治療に携わった経験のある人々、動物園やスマトラサイの保護地域の他の施設から、さらには米国、アフリカ、ヨーロッパそしてオーストラリアから、絶滅危惧種の保護救援の分野において経験のある人々も会議に出席する予定である。
SSCとの合同開催であるこの会議の計画のために、昨年来より活発に活動してきた団体は、Borneo Rhino Alliance(BORA, Malaysia)、Land Empowerment Animal People(LEAP, Malaysia)、Fauna and Flora International(FFI, Indonesia)、Rhino Foundation of Indonesia(YABI/インドネシアサイ財団)、Indonesian Zoo and Aquarium Foundation (PKBSI/インドネシア動物園水族館財団)、International Rhino Foundation (IRF/国際サイ財団)、Leuser International Foundation(LIF, Indonesia)、Wildlife Conservation Society(WCS, Indonesia)、Taman Safari Indonesia(TSI)、World Wide Fund for Nature (WWF/世界自然保護基金)およびSOS Rhino USである。
この会議はシンガポールのJurong Bird Park(ジュロン鳥類公園)においてWild Reserves Singaporeの主催で執り行われ、Sime Darby Foundation、WWF、IUCN、IRFそしてTSIが資金と資材を提供する。
初期の保護活動家たちは50年以上前にスマトラサイの希少性についてすでに懸念を抱いており、1984年にはSSCの飼育下繁殖専門家グループが、シンガポールにおいて3日間の会議を招集し、スマトラサイの保全のための総括的戦略の一部として、飼育下繁殖プロジェクトに関する実状に即した計画を作成した。
スマトラサイの生息域の行政、動物園やその他のステークホルダーの代表20人が、野生の個体群の保護を最優先とした上で、保護地域外に生息するサイを使って、世界規模での柔軟な調整による飼育下集団の形成を行うことに同意した。
その後、スマトラサイが生息している8か所の自然森林地域の主な地域での保護活動が行われたが、調査により、野生生息数がほとんど停滞、減少または絶滅していることが判明した。その理由としては、野生生息数の不適切な保護および観察、さらに野生生息域における生息数が徹底的な管理介入なしでは回復不可能なほど低い数となってしまっていることなどが考えられる。
1985年から1994年にかけて、プランテーションへと開拓された地域から、総数40頭のサイが飼育下繁殖のために捕獲され、そのうちの7頭がアメリカへ、4頭がイギリスへ移送された。
しかし、スマトラサイが元来繁殖が難しいとされる単独性の動物であること、サイの飼育生態および栄養に関する知識の不備、管理体制の問題、協力の不足、または繁殖力のある個体ではなく、死にそうな個体の捕獲に力点が置かれてしまったりといった要素が運悪く重なり、飼育下繁殖計画はほとんど良い結果が出ていない。それでもアメリカで3頭、そして2012年にはインドネシアで1頭のサイの子供が生まれている。
http://iucn.org/about/work/programmes/species/?12635/Saving-the-Sumatran-Rhino
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