ユキヒョウの保全活動―国境を越えた連携へ向け、タジキスタンを支援
2013年4月1日 CMS News
翻訳協力:星野 友子 校正協力:神田 美恵
ユキヒョウ(Uncia uncia)は、アルタイ山脈、天山山脈、クンルン山脈、パミール高原、ヒンドゥークシ山脈、カラコルム、およびヒマラヤ山脈などを中心とした、中央アジアの高山地帯に生息している。これらの地域全体で、密猟、餌となる動物や生息地の減少により、ユキヒョウの個体数はここ2世代(16年間)で少なくとも20%減少していると懸念されている。また、ユキヒョウとその脆弱な山岳地帯の生息環境は、特に気候変動によるリスクが高いとも考えられている。
このため、ユキヒョウは「移動性野生動物種の保全に関する条約(CMS)」、通称「ボン条約」の附属書Ⅰに掲載されており、さらにCMS決議7.1の協調的対策の対象種にも指定されている。また、国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧ⅠB類に指定され、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)」、通称「ワシントン条約」の附属書Ⅰに掲載されている。
タジキスタンのパミール高原に生息するユキヒョウの個体数は、およそ180~220頭とみられるが、そこから北方に位置するキルギスタンと天山山脈、および南方に位置するアフガニスタンとヒンドゥークシ山脈に生息する個体群との重要なつながりを持っている。「中央アジア山岳地帯」の生物多様性のホットスポットの中でもタジキスタン、キルギスタン、アフガニスタンはともに、ユキヒョウの分布において極めて重大な障壁となっているのである。
こうした背景のもと、ユキヒョウに関する国境を越えた連携においてタジキスタンが主導的役割を担えるよう支援するプロジェクトに、CMSの小規模助成金プログラムが積極的な資金提供を行っている。当該プロジェクトは、ファウナ&フローラインターナショナル(Fauna & Flora International)と、タジキスタン共和国環境保護委員会(The Committee of Environmental Protection of the Republic of Tajikistan)附属森林狩猟庁(The Department of Forestry and Hunting)との連携により共同で実施している。他の協力機関としては、アフガニスタン、カザフスタン、タジキスタンの政府機関やNGOに加え、ヤマネコの保全活動に重点的に取り組むNGO組織であるPantheraなどがある。
このプロジェクトの重要な目的は、この3カ国間の国境を越えて生息するユキヒョウや他の移動性の生物に関して、3カ国が連携して活動することである。よって当該プロジェクトでは3カ国の連携と協調を促し、中でもタジキスタン政府が主導的役割を果たせるように奨励、支援を行っている。また、指導者育成のための訓練、指導、人脈作りをとおして、ユキヒョウの生息している国の能力開発を支援し、国ごとに保全行動計画を策定し、実施する支援を行っている。
ファウナ&フローラインターナショナルのプロジェクトリーダーであるPaul Hotham氏は、当該プロジェクトが3カ国のより緊密な連携関係を実現するものであると確信している。たとえばこの連携によって、すでに作られた各国のユキヒョウ保全行動計画の調整、国ごとの行動計画のCMSのフレームワークとしての一本化、ユキヒョウの保護に関連する強調体制の強化などが大いに前進するはずである。また、当該プロジェクトは世界銀行が立ち上げているグローバル・タイガー・イニシアティブ(Global Tiger Initiative)の取り組みへの補完する形で、ユキヒョウの地球規模の生態系保護プログラムを開発し、2013年8月にキルギス政府が開催する国際ユキヒョウ保全フォーラムでの採択を目指している。
またHotham氏は、次のように自らの希望を語っている。アフガニスタン、カザフスタン、タジキスタンの間でより密接な連携を取ることが、これらの国々の国境を越えて生息する個体群の保護を目的としたCMSの活動のさらなる支持につながり、CMSと関係を持つことの利点を当事国以外の国々も理解してくれるようになってほしい。
このプロジェクトは、2008年にローマで開かれた第9回締約国会議で策定されたCentral-Eurasian Aridland Mammals Concerted Action(中央ユーラシア乾燥地域ほ乳類協働行動)とその関連活動計画の実施に大きく貢献するだろう。また、もう一つのローマで採択されたCMS決議(CMS決議9.3)、アジアの大型猫科動物の保全に関するの目標の実行でもある。
http://www.cms.int/news/PRESS/nwPR2013/04_apr/nw_020413_snowleopard.html
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