ブダイ、クロハギが直面する地域的な絶滅リスクの高まりが表面化
2012年7月18日 IUCN News story
翻訳協力:松岡 真由美 校正協力:松澤 友子
IUCN(国際自然保護連合)レッドリスト(IUCNが定めた絶滅の恐れのある生物種)のための最近の調査において、ブダイやクロハギの個体数の86%が、地球規模では絶滅の危険は低いが、とくにサンゴ礁三角地帯(コーラル・トライアングル、インドネシア・バリ島周辺)などの地域においてはリスクが高いことが分かった。この調査結果は、雑誌 PLoS ONEに掲載されている。
危惧されている種のうち、絶滅危惧IB類のGreenback Parrotfish (Scarus trispinosus)/ブダイ科の魚類(日本語名不明)や絶滅危惧II類のBumphead Parrotfish (Bolbometopon muricatum)/カンムリブダイは体長が大きく、寿命も長い種だが、激しいフィッシングプレッシャー(釣り人が多いために魚が警戒して釣りにくくなること)により個体数が激減している。
暫定的に絶滅危惧Ⅱ類に分類されているKapingamarangi Surgeonfish (Acanthurus chronixis)/ナメラハギは、カロリン諸島のカピンガマランギ環礁にのみ生息するが、生活のための漁業により搾取されている。
「これらサンゴ礁に生息する魚類は、激しいフィッシングプレッシャーやサンゴ礁の生息環境の破壊にも関わらず、地球規模では問題はありません」と、本研究の筆頭著者でIUCNのGlobal Species Programme Marine Biodiversity Unitの研究員Mia Theresa Comerosは言う。さらに、「しかし、サンゴ礁のシステムにおいて重要な生態学的役割を担い、個体数に与える局地的な脅威を定量化する地域評価の重要性を示す、これら体長の大きい魚類グループに、私たちは気を配る必要があります」とも述べている。
Rainbow Parrotfish (Scarus guacamaia)/ブダイ科の魚類(日本語名不明)も、局地的な個体数が脅かされている種だ。現在、情報不足で評価できない種として分類されているが、保護活動に依存しているがゆえ、この種は再評価して準絶滅危惧類として分類されるよう提案されている。
体が大きく寿命の長い種は、歴史的に捕獲量が低いため、以前は絶滅危惧類に分類されていた。Rainbow Parrotfish (Scarus guacamaia)の個体数自体は少数で安定化していたが、マングローブ生息環境の破壊や減少、魚の乱獲によって減少を続けている。
研究者は、IUCN のレッドリスト全体的評価に加え、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ブルネイ、東ティモール、パプアニューギニア、そしてソロモン諸島を網羅するサンゴ礁三角地帯でブダイとクロハギの調査を行った。その結果、サンゴ礁三角地帯におけるブダイとクロハギの105種のうち18種が漁業の対象となり、そのうち13種が、全体的評価に比べ地域的に絶滅のリスクが高いことが分かった。
「サンゴ礁三角地帯に居住する1億2千万人もの人々は、必要なタンパク源をおもに魚に頼っており、残念なことに東南アジアの95%のサンゴ礁が、持続不可能な漁獲によって絶滅の危機に瀕しています」と、Coral Reefs, Fisheries and Food Securityのシニアディレクターであり、Conservation International(コンサベーション・インターナショナル)の科学者Frazer McGilvrayは指摘する。「生息地の破壊や的を絞った漁業は、ブダイのようなサンゴ礁に生息する魚に深刻な影響を及ぼしています。Coral Triangle Initiative(サンゴ礁三角地帯 イニシアティブ)などの取り組みは、重要な生態学的エリアを守り、地域住民の食料確保を促すために漁業を管理する対策を模索しています」とも述べている。
ブダイとクロハギは、世界中で商業的に重要な漁業対象となっているとともに、サンゴ礁を訪れるダイバーを呼び寄せる観光業の役割をも担っている。ブダイとクロハギは藻類をエサとし、その繁殖を制限するため、サンゴ礁の繁栄にとって非常に重要だ。そのため、現在、ベリーズやバミューダなどの国々では、海洋保護区や漁業制限区の保護のように、ブダイやクロハギの生息地を種特異的な保護の対象としている。
「この評価が示す世界的な動向は、ブダイやクロハギにとってポジティブなものだが、局地的な個体数に起こっている現象について知る必要があります」と、IUCN Species Programme Marine Biodiversity Unitのシニア研究員で共著者でもあるBeth Polidoroは説明する。さらに、「人為的活動によるサンゴ礁の破壊が、これらの個体数が直面しているフィッシングプレッシャーを、いかに悪化させているかを理解するため、さらなる地域的な評価が必要なのです」とも述べている。
高レベルのフィッシングプレッシャーやサンゴ礁生息地の破壊が見られる地域において、正式な保護もほとんどない大型の魚類に対しては、保護活動や監視活動の強化を最優先するべきだろう。海洋保護区では、有効性を監視する必要がある。多くの場所で、種特異的な保護活動は規模を拡大し、産卵やエサ場の保護対策も含めるべきである。種の存続や保護を含む問題は、2012年9月6日から15日の間、韓国の済州島で開催されるIUCN World Conservation Congress(世界自然保護会議)で話し合われる予定だ。
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