世界の海鳥減少に懸念
2012年3月9日 IUCN News story
翻訳協力:丸目多真季 校正協力:小林玲子
ICUN(国際自然保護連合)の「絶滅のおそれのある生物種のレッドリスト」作成に協力しているバードライフ・インターナショナルが最近行った調査によると、世界の海鳥の生息状況はここ数十年の間に急速に悪化し、いくつかの種や個体群は、いまや絶滅の危機に瀕している。世界中で行われる商業漁業が海鳥にとって最も深刻な脅威となっている。
その調査結果から、海鳥がいま他のどの鳥よりも絶滅の危機に瀕していることがわかる。海鳥346種のうち97種(28%)は、世界的な絶滅危惧種として、さらに10%が準絶滅危惧種としてリストに掲載されている。また、海鳥全体の半数近くの種で個体数の減少が確認されているか、あるいは疑われている。アホウドリ科の鳥はとくに危険にさらされており、22種のうち17種がいまや絶滅の危機に瀕している。
「この新しい調査データを見ると、海の状態を知る重要な手がかりとなる生き物の生息状況が急速に悪化していることが詳しくわかります。私たちは今この情報をもとに状況を改善して、重要な種の個体数を回復させなければなりません」と IUCN種のプログラムの副代表であるJean-Christophe Vié氏は話す。
海鳥が激減している原因は人間の営みにある。海洋では商業漁業により海鳥の重要な餌となる魚を枯渇させ、不慮の混獲で、おびただしい数の海鳥を死なせている。陸上では外来種の持ち込みにより海鳥の集団繁殖地の多くを荒らしてしまった。
「海鳥は、多種多様で世界中に生息していることや生態系での上位捕食者であることから、海洋の健康状態をより広く知るための貴重なバロメーターにもなっています」とバードライフ世界海鳥プログラムの主任で論文の筆頭著者でもあるJohn Croxall教授は話す。
海鳥の減少を増加に転じる時間はまだ残っているかもしれない。また、今回の調査では、必要な対策が明らかになった。海鳥が集まる陸上の集団繁殖地と海洋の餌場は、いずれも保全する必要がある。バードライフは海鳥のための陸上におけるIBAs (Important Bird Areas:鳥を指標とした重要自然環境)を多く選定してきたが、さらに、マリーンIBAs(海鳥を指標とした重要海洋環境)のリストを初めて公表する予定である。目標は、選定した地区を活用して海洋保護区の世界的なネットワークをつくり、海洋システムの管理と保護への新しい取り組みを補強することである。
海鳥の絶滅を食い止めるためには、外来種(とくに人間によって持ち込まれたげっ歯類)を海鳥のおもな繁殖地から駆除しなければならない。そこで、すでにいくつかの集団繁殖地再生プロジェクトが実施され、成果をあげている。そしてバードライフは現在、アイランド・コンサベーション(Island Conservation)およびカリフォルニア大学サンタクルズ校(the University of California, Santa Cruz)と共同で今後行う外来種根絶作戦のための優先保護地区リストを編纂している。しかし、まだ不十分な情報を補い、養殖業やエネルギー生成事業、気候変動などの新たな脅威に対処するには、さらに調査を続ける必要がある。
「バードライフ・インターナショナルが行った調査は、世界で最も絶滅の恐れのある種を守るために、どんな保護活動が必要なのかを見極めるうえで、とても重要になります」とJean-Christophe Viéは話す。
http://www.iucn.org/news_homepage/news_by_date/2012/?9359/Worrying-declines-for-worlds-seabirds
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