Flexを追え―北太平洋西部コククジラ群(the western gray whale)
2011年5月2日 IUCN News story
翻訳協力:蔦村的子 校正協力:豊田実紗
Flexに会ってもらいたい。Flexは、極度に頭数の減少した絶滅の危機にある、北太平洋西部コククジラ群に属している。
Flexに電子タグを付けて、科学者たちが人工衛星で追跡することによって、この種の回遊ルートを発見し、漁具による絡まり、水中騒音および流出油にさらされることなどのないように、さらなる保全策を発見しようと願ってきたのである。
北太平洋西部コククジラ群は、国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種レッドリスト(ホームページ版)として記載さに載せられている。2010年には、その推定頭数規模はおよそ136頭で、そのうちその中の成熟したメスは30頭ほどである。
北太平洋西部コククジラ群は、冬の間は絶食し、春になると回遊する。そして、夏から秋はロシア連邦東部のサハリン島沖で大いに食べて楽しみ、再び越冬地に向けて回遊するための準備をするのである。
このコククジラ群については、その繁殖地も回遊ルートもほとんど知られていない。そのため、サハリン島地域以外での適切な保護活動を計画するのが難しい。
2010年10月、ロシア人とアメリカ人からなる科学者チームが、国際自然保護連合の科学的支援および後方支援を得て、13歳の老いたオスの北太平洋西部コククジラに電子タグを取り付け、人工衛星遠隔測定法を使ってモニターした。研究者たちはこのオスにFlexという名前をつけ、以来、その細かい動きを探知してきたのである。
北太平洋西部コククジラ群のうち、電子タグを付けて遠隔測定法によりモニターされたものは、Flexが初めてである。
「健康で成熟したオスを選ぶために細心の注意が払われました」。
このプロジェクトをコーディネートした、ケンブリッジに本部のある国際捕鯨委員会(IWC)の科学部長Greg Donovanは言う。
「電子タグの取り付けに伴うリスクは最小限ですが、絶対にメスクジラや子どものクジラにはタグを取り付けたくありませんでした。
北太平洋西部コククジラ群の頭数保護の国際的な保全に、この研究から私たちが得ようとする情報は極めて重要となります。政府、国際組織、国際科学者、産業界、そしてその他の利害関係者との共同研究であっても同様なのです」。
Flexの追跡は4カ月あまりにわたって無事成功し、長距離で―しかも意外な―回遊ルートを見せてくれた。北太平洋西部コククジラ群は、冬の間は南下して日本、韓国またはそれに中国に向かって回遊すると信じられてきた。しかし、誰もが驚いたことにFlexはオホーツク海を横切ってカムチャッカ西岸に向かい、それからカムチャッカ南端沿岸にそって移動、コマンダー諸島東岸にそって上るとベーリング海を突っ切ってアラスカに向かい、アリューシャン列島諸島を抜けて、アラスカ湾を横切ったのである。
2011年初頭には、Flexはワシントン州沖のアメリカ西海岸に到着した。Flexの位置確認に関する情報は、2011年2月4日のにサイレツ族湾沖でのものが最後だった。この日に電子タグが外れてしまったようだ。
カムチャッカ半島を後にして以来、Flexは124日間にわたり8,500キロ以上を旅したことになる。平均時速は6.6キロメートル/時であった。
過去に収集されたFlexの写真データとともに、こうした情報は第一の証拠として、北太平洋西部コククジラ群のサハリンでの餌場が北太平洋東部であることを示している。
「Flexの動きがどんなに興味深いものであるにしろ、人工衛星による電子タグ・モニタリング関して課題があることを見失ってはなりません。
過去10年間において、コククジラ群が日本漁船の漁具に巻き込まれた件数から考えてみても、日本沿岸も回遊していることがわかります。ですから、日本、韓国、あるいは中国での北太平洋西部コククジラ群の回遊到着地を突き止めることが、いまだ非常に重要なのです」と、国際自然保護連合の北太平洋西部コククジラ群の保全イニシアチブ・コーディネーターであるFinn Larsenは語っている。
科学者たちは今、収集データを分析し、北太平洋西部コククジラ群の動きをよりよく理解するべく努力している。2011年8月と9月には、他の北太平洋西部コククジラ群12頭に、電子タグを取り付け、モニタリングすることも計画中である。
この電子タグモニタリングプロジェクトは、国際捕鯨委員会、国際自然保護連合、A.N. Severtsovロシア科学アカデミー生態学・進化学研究所(A.N. Severtsov Institute of Ecology and Evolution of the Russian Academy of Sciences)、オレゴン州立大学(the Oregon State University)、およびワシントン大学(the University of Washington)の間における、主要な国際的共同研究である。
2010年には、Exxon Neftegas Ltd.(エクソンネフテガス社)およびSakhalin Energy Investment Company(サハリン・エネルギー投資会社)から資金提供を受けた。
« ケニア野生生物公社総裁 Julius Kipng'etich氏インタビュー | トップページ | フカヒレ禁止令、2011年7月1日に施行 »
「35 レッドリスト 絶滅危惧種」カテゴリの記事
- 香港市場に出回る絶滅危惧種であるハンマーヘッドシャークのフカヒレは、主に東太平洋地域産であることが判明(2022.04.12)
- スリランカがゾウ保護のためプラスチック製品の輸入を禁止へ(2022.01.25)
- 陸棲脊椎動物の絶滅が加速していることが調査により判明(2021.12.14)
- キツネザル類のほぼ3分の1とタイセイヨウセミクジラが絶滅危惧IA類に―IUCNレッドリスト(2021.11.16)
- クロマグロ産卵場における致命的な漁具に対するトランプ政権による許可の差し止めを求め複数の団体が提訴(2021.11.02)
「24 北米」カテゴリの記事
- 食料安全保障と大災害・パンデミックからの回復力を促進(2021.12.21)
- クロマグロ産卵場における致命的な漁具に対するトランプ政権による許可の差し止めを求め複数の団体が提訴(2021.11.02)
- 増大する中国漁船団により世界の海洋資源が枯渇(2021.09.14)
- 象牙やサイの角の大物密輸業者逮捕で革命の兆し(2020.06.30)
- 50年以上にわたりタグ装着・再捕獲したサメから得られた最新のサメアトラス(2020.03.17)
この記事へのコメントは終了しました。
« ケニア野生生物公社総裁 Julius Kipng'etich氏インタビュー | トップページ | フカヒレ禁止令、2011年7月1日に施行 »
コメント