アフリカに生息するチンパンジーの密輸
2011年4月1日 Channel4.com
校正協力:杉山朝子 翻訳協力:藤林倫子
自然保護活動家は、犯罪組織によって麻薬や武器とともにアフリカから密輸される絶滅の危機にある霊長類の売買増加に歯止めをかけるために、世界規模の対策を訴えているとAsha Tanna氏は記す。一人の男がチンパンジー密輸の罪によりカメルーンで逮捕されている。(LAGA:環境保護団体ラガ・カメルーン)
Pan-African Sanctuary Alliance(PASA:全アフリカ保護施設連合)――アフリカ大陸全域の自然保護区を支援する非営利団体――は、麻薬取引よりチンパンジー密輸の方が金になる場合があるため、すべての絶滅危惧種が「危機的」な状況にあると述べている。
PASAの執行役員であるDoug Cress氏は、「こういった犯罪組織は、小集団などではなく十分に組織化された組織で、結束が固く素早いのです」と言う。
「完璧な裏取引ができ、指令は一週間足らずで実行されます。あらかじめ麻薬や自動拳銃が飛行機に積み込んであれば、あとはヒョウの毛皮と生きたチンパンジーの赤ちゃんを入れた木箱を放り込めば、儲けが増えるのです」。
この写真の男は、50kgのマリファナとコカイン4袋と一緒にチンパンジーの赤ちゃんを車の後部座席に積んでカメルーンからナイジェリアに密輸しようとしたところ、Last Great Ape Organization(LAGA)、環境保護団体ラガ・カメルーン(野生生物保護法施行団体)にとり調べられ、3年間拘置された。
自然保護活動家によると、ゴリラの赤ちゃんは、闇市場で1頭当たり40,000ポンド(約537.8万円)(1英ポンド = 134.45円 / 2011年4月19日現在)の値がつく可能性があるという。
法施行団体は、国境をまたぐパトロールが手薄なことや野生生物犯罪に対する処罰が軽いことから、違法に利用されたアフリカの通商ルートを明らかにしたと述べた。
「携帯電話やインターネットの普及によって連絡が取りやすくなり、たくさんのものを運べるようになったのです」とDoug Cress氏は言う。
「アフリカの一部地域では、起訴を支持しにくい上にわいろで起訴から逃れられるので、このような名うての密売人を捕らえることができません」と同氏は続ける。
PASAは、通常、絶滅の危機にある霊長類は、中東、アジア、東ヨーロッパなどの地域から前もって注文されるが、異国の珍しいペットになるか動物園のショーに出るのがおちだと述べる。エジプトのアレクサンドリアやシャルム・エル・シェイク(Sharm El Sheik)、またはナイジェリア経由でカメルーンから、もしくはスーダン経由でケニヤからの動物の密輸がますます増えている。
不正取引された絶滅の危機にあるすべての動物は、CITES(ワシントン条約)に基づいて保護されることになっている。捜査官が押収した木箱の中身を見ると、動物の毛皮や、象牙、サイの角、そして体のさまざまな部位の増加が明らかである。
先ごろ、過去10年間で最多の類人猿の体の部位を押収したことを受け、ガボンと西アフリカで5人が逮捕された。発見された部位には、ゴリラ1頭の頭部と手首のほか、チンパンジー12頭の頭部とチンパンジー30頭の手首があった。密輸されたチンパンジーは、捜査官に引き取られた。(PASA)
アフリカの地元警察、インターポール(国際刑事警察機構)、LAGA、World Customs Organization(WCO:世界税関機構)は、野生生物密輸組織を起訴するためPASAと協力して活動する。
LAGAの責任者であるOfir Dtori氏は、次のように述べた。「保護を阻む問題はわいろで、官僚や判事、警察にも同じことが言えます。わいろが一番の障壁で、戦わなければならない問題なのです」。
「逮捕理由のうち85%を占めるのが贈賄で、法律制度に基づいた訴訟の80%を占めています。犯罪者を撲滅するには、投獄するしかないのです」。
「CITESは、政府の協力があるときだけ効力を発揮します。規則に従いたがらない政府もあるというのが問題です」。
最近エジプトで起きた政治的混乱の後、密輸申し立てについてのコメントを求めたがエジプト政府からの回答は未だない。
指導の欠如
WCO広報担当官のGrant Bushby氏は、アフリカの多くの税関が、自覚、指導、設備、政府機関内の協力がないとして「国境区域での効果的な法施行に悪影響を及ぼしています」と述べた。
「わいろも法施行の取り組みを邪魔しています」と、言い添えた。
PASAは、アフリカの国際貿易の相手国数カ国とのつながりがあるため、国境での検問の際、卑怯な職員は見て見ぬふりをするのである、と主張する。また、アフリカの空港での不正取引の多くは、駐機場で行われていると述べる。
犯罪者を逮捕できたとしても、密輸された動物は押収され、犯罪者は注意を受けるだけで逃れられることがたびたびある、と自然保護活動家は述べる。刑務所送りになった犯罪者も、野生生物の不法取引は麻薬や武器の密輸よりも判決が軽いことがよくあるため繰り返すことになる。
PASAは、アフリカから密輸されたすべてのチンパンジーやゴリラは野生で捕獲されたとして、CITESに調査書類を提出している。
CITESで法施行の主任を務めるJohn Sellar氏は、こう述べた。「何もせずにぼんやりしている場合ではありません。CITESには世界的に野生生物保護法施行を管理するひとりの役員がいます。エジプトではこれまでに生きたまま霊長類の取引が行われていることがわかっています。この問題に取り組むためにCITESは同政府と親密に活動してきたのです」
「類人猿の不正取引は、類人猿の個体数に悪影響を及ぼすのでとても深刻な問題です。レーダーでもわかります。応じない国があるとわかれば、不正取引をやめさせるために制裁を加えます。財政には深刻な問題を及ぼしませんが、国際的には妨げになる制裁です。CITESは法執行機関ではありません。CITESがつかんだ確かな証拠はすべて政府に調査するよう伝えます」
LAGAは成果が見え始めたと述べているものの霊長類の不正取引防止についてはまだ戦いの最中にある。
(Asha Tanna氏は、イギリス人フリージャーナリストである。保護に関するブログを書いており、霊長類関連の情報や記事を中心に取り上げている。)
原文 http://www.channel4.com/news/africa-chimp-smuggling-conservationists-call-for-action
NPO法人 野生生物保全論研究会のHP http://www.jwcs.org/
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