音楽の裏側 ギブソン・ギター社木材調達の落とし穴
2011年3月22日 Triple Punditへの寄稿
ギブソン・ギター社の一件
Nick Kordesch
翻訳協力:福永詩乃 翻訳協力:菊地清香
「スイート・チャイルド・オブ・マイン」の伝説的なギターリフが、今年のスーパーボウルのハーフタイムショーでカウボーイズ・スタジアム中に鳴り響いた。スラッシュのギターは破壊への欲望をひそかに持っていたのか。2009年、象徴的なギターメーカーであるギブソン・ギター社(Gibson Guitar)のナッシュビル本社を連邦捜査員が家宅捜索し、マダガスカルで不法伐採された可能性のあるギターパーツを押収した。ようこそ、違法木材のジャングルへ。
家宅捜索に入られたことで、ギブソン・ギター社はあっという間に米国の修正レーシー法の最もわかりやすい執行例のひとつとなってしまったのだが、この法律は違法木材の取引を禁止するものである。米国農務省が当該木材を違法伐採されたものと見なせば、ギブソン・ギター社の仕入れ先の一つは懲役を受けるおそれが、ギブソン・ギター社は罰金が科されるおそれがある。ギブソン・ギター社はまだ正式に罪に問われていないが、企業ブランドはすで痛手を受けている。
レーシー法は1900年より施行されている法律であるが、野生生物、魚類、そして植物の違法な密売に立ち向かうために成立したものである。2008年、米連邦議会は同法を修正し、大部分の植物と植物を材料とする製品にまで規制対象を広げた。これにより、米国は世界で初めて違法伐採された木材の輸入を法律で禁止する国となったのである。木工製品を輸入する企業は、「しかるべき注意」を払い適切な方法をとっていることを明示し、材料となる木が現地法に従って伐採されたものであることを証明しなければならない。
ギブソン・ギター社が受けたのは、不当な見せしめだったのだろうか。同社のCEOはまさにそう感じている。長年にわたり、森林管理協議会(The Forest Stewardship Council:責任ある森林管理を目的とした評価の高い非営利団体 )の基準に見合った木材のバイヤーとして、ギブソン・ギター社は信頼のおける森林施業を行う「感じのいい企業」のひとつとして知られている。それだけに今回の家宅捜索は業界に衝撃を与えた。――しかし、木材の供給網は不透明かつ複数国にわたるため、環境保全に最も注力している企業でさえも、違法木材に足をすくわれることがあり得るのである。
楽器産業は、ギターのバック、横板、フレットボード等の楽器のパーツを伝統的な珍しい楽器用木材に頼っているため、絶滅危惧種の木材や違法伐採された木材を調達してしまうリスクがとくに高い。木材の供給網は発展途上諸国を経由するため、木材の正確な出処をたどることが難しいこともあり得る。ギブソン・ギター社は黒檀や紫檀を指板に使おうと輸入したことで告発されたのだが、これらの木材はの伐採はマダガスカルでは1996年から違法とされていた。
守るべき価値の高いブランドを持つ企業にとって、無意識に法に抵触してしまうリスクは減らしておいて損はない。合法認証を付与するSCSリーガル・ハーベスト(SCS LegalHarvest)やスマートウッド(Smart Wood)などの機関は数多くあるが、それらの機関のねらいは自社の製品が合法なものであることをバイヤーに保証する手段を製材会社に提供し、それによって製造業者のリスクを最少化することである。
木工製品の輸入者はみなレーシー法の執行に従う必要があるが、知名度が低めの企業は違法行為が発覚しても罰金を支払うだけで済む。知名度が高く消費者に身近なブランドは、ギブソン・ギター社の社屋が受けたやっかいな家宅捜索のようなイメージ戦略の大失敗を受ければほぼ壊滅してしまう。購入する木材が合法的に伐採されたことを証明すれば、企業はブランドが傷つくリスクを減らすことができる。
残念ながら、国立公園の木や絶滅危惧種の木の伐採は蔓延しており、商用木材を伐採している労働者が受け取る賃金は、そうした珍しい木々が一般市場で売れる値よりもずっと低い傾向にある。合法的に伐採された木材を調達することは、責任ある森林活動を支える第一歩に過ぎない。より包括的な森林認証制度である森林管理協議会(FSC)や森林認証制度(Programme for the Endorsement of Forest Certification、PEFC)等は、合法性の認証にとどまらず、資源や生態系、そしてそれに依存する地域社会の持続可能性をも検査の対象としている。ヨーロッパ連合やオーストラリアも先例にならい、違法な木材の禁止を実行しつつあり、いくつかの世界最大の木材市場から違法伐採者を締め出す考えである。
***
Nick Kordeschはサイエンティフィク・サーティフィケーション・システムズ(Scientific Certification Systems)社の広報担当アソシエイトであるが、同社は有数の環境保証企業であり、森林管理協議会の創設メンバーである。
http://www.triplepundit.com/2011/03/behind-music-gibson-guitars-timber-sourcing-debacle/
★ニュース翻訳を続けるためにご協力ください!
→JWCSのFacebookでページのイイネ!をして情報をGET
→gooddoでクリックやFacebookいいね!をしてJWCSを支援
→クリックで守ろう!エネゴリくんの森でゴリラの保全に協力
→JWCSの活動にクレジットカードで寄付
※日本ブログ村の環境ブログに登録しています。よろしければクリックしてください。
にほんブログ村
« コモドオオトカゲが闇市場の人気商品に | トップページ | ケニア野生生物公社総裁 Julius Kipng'etich氏インタビュー »
「37 野生生物犯罪」カテゴリの記事
- ブラジルの先住民グループが違法伐採をめぐる数十年の争いに勝利(2022.04.19)
- 香港市場に出回る絶滅危惧種であるハンマーヘッドシャークのフカヒレは、主に東太平洋地域産であることが判明(2022.04.12)
- 空輸による動物密輸と人獣共通感染症拡散の防止(2022.01.11)
- 絶滅寸前のヨーロッパウナギが香港のスーパーマーケットに流通(2021.10.26)
- クマに注目―パンデミックでインドネシアのマレーグマの違法取引が悪化する可能性(2021.08.24)
「22 アフリカ」カテゴリの記事
- ディスコライトでパニック:ボツワナのチョベ地区におけるアフリカゾウの侵入を防ぐ太陽光発電ストロボライト(2021.10.19)
- コロナ禍でのトロフィー・ハンティングの禁止がアフリカの野生動物と人々の生計を脅かす(2021.08.31)
- ボツワナでゾウ狩りライセンスのオークションが開始される(2021.01.15)
- 9.5tものセンザンコウのうろこの押収により、野生生物犯罪への対応強化がナイジェリアで必至に(2020.10.20)
- 保護区域周辺の人間と野生動物の対立を緩和するための地域密着型の戦略の実験的調査(2020.07.07)
「35 レッドリスト 絶滅危惧種」カテゴリの記事
- 香港市場に出回る絶滅危惧種であるハンマーヘッドシャークのフカヒレは、主に東太平洋地域産であることが判明(2022.04.12)
- スリランカがゾウ保護のためプラスチック製品の輸入を禁止へ(2022.01.25)
- 陸棲脊椎動物の絶滅が加速していることが調査により判明(2021.12.14)
- キツネザル類のほぼ3分の1とタイセイヨウセミクジラが絶滅危惧IA類に―IUCNレッドリスト(2021.11.16)
- クロマグロ産卵場における致命的な漁具に対するトランプ政権による許可の差し止めを求め複数の団体が提訴(2021.11.02)
「18 植物」カテゴリの記事
- 最後に残された最上級の熱帯林が緊急に保護の必要があることが、最新の研究により明らかとなる(2021.08.17)
- 絶滅危惧リストに掲載するよう新たに100種類以上のユーカリの木本種を提言(2020.11.24)
- 研究によりカーリー盆地の水不足と自然植生の減少のつながりが明らかに(2020.02.25)
- コンゴ共和国がゴリラやゾウの住処となる新しい国立公園を指定(2019.02.16)
- 中国人消費者の熱狂的な欲望がローズウッドを絶滅に追いやる(2019.01.10)
この記事へのコメントは終了しました。
« コモドオオトカゲが闇市場の人気商品に | トップページ | ケニア野生生物公社総裁 Julius Kipng'etich氏インタビュー »
コメント