自然界における侵略的外来種の影響、初めての測定
2010年1月22日 IUCN プレスリリース
翻訳協力:松井佐絵 校正協力:津田和泉
疾病や植物からネズミ、ヤギに至るまで幅広い種を含む侵略的外来種は、地球上の生命に対する脅威のトップ3に入るという。IUCNがパートナーとして協力する国際侵入種プログラム(Global Invasive Species Programme:GISP)がまとめた新たな報告書では、そう述べられている。ほとんどの国が、この脅威に取り組むための国際公約を掲げている。しかし、関連法案を導入している国は半数でしかなく、現場で適切な対策を取っている国はさらに少ない。
「生物学的侵入に関する国際指標:種数、生物多様性への影響、および政策反応(Global indicators of biological invasion: species numbers, biodiversity impact and policy responses)」と題するこの報告書では、57カ国について調査を行い、その結果、平均で1カ国につき50種の外来生物種が生物多様性に悪影響を与えていることが明らかにされている。各国の侵略的外来生物の数は、赤道ギニアの9種から、ニュージーランドの222種にわたる。
合計で542種が侵略的外来種として記載されており、植物316種、海洋生物101種、淡水魚44種、哺乳類43種、鳥類23種、両生類15種が含まれている。この報告書の主執筆者であり、侵入生物学センター(Centre for Invasion Biology(在南アフリカ:CIB)に所属するMelodie McGeoch教授によると、これらの数値はかなり低めに見積もられたものだという。「開発が進んでおらず研究に対してあまり資金をつぎ込めなかった地域において、我々は侵略的外来種が予測よりも少なかったことを示しました。」外来生物の数の増加と分散によって侵入先の地域に悪影響を及ぼすが、それでもなお、過去25年間に渡る国際貿易の大幅な増加が原因となって状況は進行している。
BirdLife InternationalのStuart Butchart博士は、「IUCNレッドリストに記載されている絶滅の危機に瀕した種のうちの一部については、侵略的外来種の効果的な管理や除去によって、状態が改善している。しかし、より多くの種にとっては外来種の分散や脅威が増大しており、より一層の危機に瀕しています」と、述べる。「このことから、我々は侵略的外来種との戦争において、一部の戦闘では勝利を収めているものの、現時点での証拠を見れば、この戦争に敗北しつつあるという事実が示されています」(同氏)。
もし、管理を行わずに放置すれば、侵略的外来種は在来種に非常に大きな影響を及ぼしうる。例えば、ニュージーランドの固有種であるキイロモフアムシクイという鳥は、近年、ネズミの個体数が急増したことによって、大きな被害を受けてきた。今では2つの個体群が絶滅し、さらに3つの個体群で個体数が大きく減少していることから、IUCNレッドリストでは「絶滅危惧II類」から「絶滅危惧IB類」へと評価カテゴリーを上げている。
同様に、病原性のツボカビは1998年までまったく知られていなかったが、世界中の多くの両生類の減少や絶滅の原因であると考えられている。菌類の一種であるツボカビが引き起こす病気は、人間のほか、外来魚からアフリカツメガエルまでを含む幅広い宿主によって、拡散させられる可能性がある。
しかし、侵略的外来種の影響は、有効に管理することが可能だ。メキシコの太平洋側にあるナティヴィダード島に生息する海鳥のクロハラミズナギドリは、ネコ、ヤギ、そしてヒツジによる脅威にさらされていた。しかし、これらの外来動物が根絶されたため、IUCNレッドリストにおけるクロハラミズナギドリのステータスは「絶滅危惧II類」から「準絶滅危惧」へと下げられた。
同じく、オーストラリア南西部では過去10年間行われたアカギツネの管理の結果、固有種であるクロテワラビーの個体数を、IUCNレッドリストにおける評価カテゴリーが「軽度懸念」に下がるまで、十分に回復させることができた。
IUCNの事務局次長であり、GISPの議長も務めるBill Jackson博士は、「侵入種のまん延を最初の段階で防いだほうが、こうした種が根付いてしまった後で生物多様性の危機に取り組むよりも、ずっと費用対効果が高いでしょう」と述べている。「十分な資金と政治的意志があれば、侵入種を管理、あるいは根絶することは可能です。これによって、在来種を絶滅から救うことができます。しかし、各国はこの問題への取り組みを飛躍的に改善する必要があります。」
参考
同報告書はCentre for Invasion Biology(南アフリカ、ステレンボス大学)、バードライフ・インターナショナル、およびIUCNの科学者によって作成された。
報告書全文は下記のサイトから入手が可能。
http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/fulltext/123243506/PDFSTART?CRETRY=1&SRETRY=0
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