前途険しい地中海地域の哺乳類
2009年9月15日 ニュース プレス・リリース IUCN(国際自然保護連合)
翻訳協力:佐治京子 校正協力:津田和泉
絶滅危惧種に関する国際自然保護連合(IUCN)レッドリストによれば、地中海地域に生息する哺乳類の最新の評価から、地域レベルで6種に1種が絶滅の危機にあることがわかった。
クジラとイルカを除く地中海地域の哺乳類320種の状況を調査して評価したところ、絶滅の危険性が極めて高い「絶滅危惧ⅠA種」が3%、前者ほどではないが、絶滅の危険性が高い「絶滅危惧ⅠB種」が5%、絶滅の危険が増大している「絶滅危惧Ⅱ種」が8%であった。
さらに8%が存続基盤が脆弱な「準絶滅危惧」の状況にあり、3%がすでに「絶滅」か「地域絶滅」したと考えられている。IUCNレッドリストに照らして地中海地域に生息する哺乳類全種が評価されたのはこれが初めてである。
報告書の共同執筆者であるIUCNのAnnabelle Cuttelod氏は、「最大の脅威は生息域の破壊であり、絶滅危惧種の90%が影響を受けています。この地域の豊かな生物多様性を失わないためにも、重要な地域の保護と生息環境の保全に対する国際的な取り組みが必要です。」と指摘している。
げっ歯類、コウモリ、トガリネズミ、ハリネズミおよびモグラが地中海地域に生息する哺乳類の大多数であり、農業、公害、気候変動や都市化により生存が著しく困難になっていることが調査から明らかになった。
シカなどの大型草食動物、肉食動物、ウサギや野ウサギは、特に絶滅の危機にさらされている。この動物群のうち、地中海地域ではすでにイランダマジカ(Dama mesopotamica)およびカバ(Hippopotamus amphibius)をはじめとする8種が絶滅している。
地中海モンクアザラシ(Monachus monachus)およびスペインオオヤマネコ(Lynx pardinus)はいずれも「深刻な危機」(絶滅危惧ⅠA種)にある。昨年10月バルセロナで開催されたIUCN世界自然保護会議では、この2種の生息環境保全に向けた国際的な取り組みが求められた。
絶滅の危惧にある哺乳類の65%が農業、60%が狩猟と捕獲、50%が侵入生物種によって影響を受けている。全体的には、地中海地域に生息する哺乳類の4分の1以上(27%)の個体数が減少傾向にあり、31%が安定、さらに40%はその個体数の変動傾向が明らかでない。報告によれば、種個体群が増加しているのは3%に過ぎず、それも保護活動によることが多い。
哺乳類の生物多様性が最も大きくみられるのがこの地域の山岳地帯であり、絶滅危惧種がとくに集中してみられるのがトルコ、東部地中海沿岸地方およびアフリカ大陸北西部各地の山岳部である。サハラ砂漠は動物の種類が比較的乏しいが、その高い割合が絶滅の危機にある。
サハラ砂漠に生息する哺乳類の絶滅危惧種49種のうち、20種がこの地域特有の種であり世界中ほかのどこにも生息していない。この事実が、このような種の地球上の全個体数を保護しなければならない責任が地中海地域諸国にあることを明らかにしている。
報告書の共同執筆者であるHelen Temple氏が次のように語っている。「地中海地域に生息する大型の草食および肉食の哺乳類が確実に生き残るためには、生息環境と食物連鎖を回復させる必要があります。私たちは人々に、大型肉食動物を受け入れ、保護地域の管理を改善し、狩猟活動に関する法律の施行を強化するよう働きかけていく必要があります」。
« トカゲの密輸出容疑で日本人男性を逮捕 | トップページ | イエメンで生き続けるヒョウ »
「22 アフリカ」カテゴリの記事
- ディスコライトでパニック:ボツワナのチョベ地区におけるアフリカゾウの侵入を防ぐ太陽光発電ストロボライト(2021.10.19)
- コロナ禍でのトロフィー・ハンティングの禁止がアフリカの野生動物と人々の生計を脅かす(2021.08.31)
- ボツワナでゾウ狩りライセンスのオークションが開始される(2021.01.15)
- 9.5tものセンザンコウのうろこの押収により、野生生物犯罪への対応強化がナイジェリアで必至に(2020.10.20)
- 保護区域周辺の人間と野生動物の対立を緩和するための地域密着型の戦略の実験的調査(2020.07.07)
「35 レッドリスト 絶滅危惧種」カテゴリの記事
- 香港市場に出回る絶滅危惧種であるハンマーヘッドシャークのフカヒレは、主に東太平洋地域産であることが判明(2022.04.12)
- スリランカがゾウ保護のためプラスチック製品の輸入を禁止へ(2022.01.25)
- 陸棲脊椎動物の絶滅が加速していることが調査により判明(2021.12.14)
- キツネザル類のほぼ3分の1とタイセイヨウセミクジラが絶滅危惧IA類に―IUCNレッドリスト(2021.11.16)
- クロマグロ産卵場における致命的な漁具に対するトランプ政権による許可の差し止めを求め複数の団体が提訴(2021.11.02)
「23 ヨーロッパ」カテゴリの記事
- 絶滅寸前のヨーロッパウナギが香港のスーパーマーケットに流通(2021.10.26)
- スイス、外国人トロフィーハンターによるアイベックスの狩猟を禁止(2021.10.12)
- 50年以上にわたりタグ装着・再捕獲したサメから得られた最新のサメアトラス(2020.03.17)
- 有機畜産農業が野鳥を増やす(2020.01.31)
- 象牙同盟2024:政治指導者、自然保護活動家、著名人らが共に象牙需要の問題に取り組む(2019.02.19)
「12 哺乳類」カテゴリの記事
- Covid-19によりコウモリと疾病論争が再燃(2022.03.22)
- スリランカがゾウ保護のためプラスチック製品の輸入を禁止へ(2022.01.25)
- 陸棲脊椎動物の絶滅が加速していることが調査により判明(2021.12.14)
- キツネザル類のほぼ3分の1とタイセイヨウセミクジラが絶滅危惧IA類に―IUCNレッドリスト(2021.11.16)
- ディスコライトでパニック:ボツワナのチョベ地区におけるアフリカゾウの侵入を防ぐ太陽光発電ストロボライト(2021.10.19)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント