地中海のトンボ、乾燥化で絶滅のおそれ
2009年9月29日 ニュース プレスリリースIUCN (国際自然保護連合)
翻訳協力:石野精吾 校正協力:津田和泉
絶滅危惧種に関するIUCNレッドリストによると、地中海のトンボとイトトンボの5分の1は、淡水不足の進行が原因で地域レベルでの絶滅の危機にさらされている。
土地開発の結果、気候変動や生息地の減少も昆虫に影響を与えているとレポートで報告されている。
163種の地中海トンボと地中海イトトンボの評価は、5種類は絶滅危惧IA類、13種は絶滅危惧IB類、さらに13種は絶滅危惧Ⅱ類、27種は準絶滅危惧、96種は軽度懸念、6種は分類するには評価するだけの情報が無いため、情報不足に分類されるが危機にさらされている可能性がある。
「気候変動や水の需要の増加がトンボたちの命を奪っており、状況はこれら希少種にとって悪化の一途をたどっているようです。」とIUCNトンボ専門グループでありレポートの共同編集者であるJean Pierre Boudot氏は語る。「少ない降水量と干ばつによって大半のトンボとイトトンボの生息地が減っています。」
4種は既に地中海で絶滅種としてリストアップされており、それは
the Little Whisp(Agriocnemis exilis:イトトンボ科ヒメイトトンボ属:日本にはいない),
the Common Pond Damsel(Ceriagrion exilis:イトトンボ科キイトトンボ属:日本にはいない),
thephantom Flutterer(Rhyothemis semihyalina:トンボ科チョウトンボ属:日本にはいない)、
the Darting Cruiser(Phyllomacromia Africana:ヤンマ科かオニヤンマ科などの大型トンボ類)
です。
一般的にトンボは水質を計るのに良いと知られている。これら地中海種の67%を危機にさらしているおもな原因は、生息地の減少と汚染である。かつて地中海のあちこちでみられたThe Spotted Darter(Sympetrum depressiusculum:ヤンマ科かオニヤンマ科などの大型トンボ類)という種類は、いまは絶滅危惧Ⅱ類にリストアップされ、米作地の農業施行強化のために減少している。
これら地中海種の中の14%は、もっとも豊かでありながら同時に最も脅威にさらされているいくつかの生息地である地中海の淡水生態系のみで見られ、9%は絶滅危惧IB類か絶滅危惧Ⅱ類と評価された。レポートによると、地方特有のトンボの大多数がthe Maghreb (マグレブエリア)と the Levant(レヴァントエリア)といったこのエリア特有の人種紛争のある地中海の南部と西部で生息している。
脅威にさらされている種の大多数はトルコ南部とバルカン半島にいたるエリアの「レヴァントエリアとアルジェリア北部とチュニジア北部に集中している。例えばThe Glittering Demoiselle(Calopteryx exul:カワトンボ科の一種)は、絶滅危惧IB類としてリストアップされ減少している。このトンボはマグレブエリアの水中生息地に住んでおり、居住用の使用や、水質汚染や灌漑や干ばつによる水利用によって生態系が脅威にさらされている。
地域レベル、国家レベルそして国際レベルでの長期的な協調活動が必要であり、地中海諸国が地球に住む人類を守らなければならないという責任をこのレポートは浮き立たせる結果となった。トンボの種類の中のthe Ornate Bluet(Coenagrion ornatum:イトトンボ科)は欧州生息地指令に含まれている国際法のおかげで、すでになんらかの配慮ある保護を受けている種類もあるが、他の種類は絶滅の危機にありながらも全く保護を受けていない。
「鍵となるエリアでの選択と保護はこれらの種の存続を確かなものにすることが極めて重要な事です。」とこのレポートの共同著者であるIUCNの Annabelle Cuttelod氏は語る。「トンボたちの生態系にはとくに農業目的やインフラ開発のための水の使用の計画と管理を考慮しなければならない。IUCN レッドリストデータがそれらを語っています。」
Full report: http://cmsdata.iucn.org/downloads/mediterranean_dragonflies_en_web.pdf
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