野生動物に打撃を与えるベトナムの商業野生動物ファーム
―ファームは保護、法執行に悪影響―
2009年5月21日
WCSプレスリリース ニューヨーク
翻訳協力:石亀豪 校正協力:津田和泉
―東南アジアのCommercial wildlife farms(商業野生動物牧場)は、野生個体の生息数搾取の削減に貢献していない。こういったファームでは、食用肉や他の野生動物製品を生産する目的で希少なヘビ、カメ、ワニ、サルなどが繁殖、飼育されている。
じつのところ野生動物ファームは問題を悪化させていることがWildlife Conservation Society(WCS:野生動物保護協会)とVietnam’s Forest Protection Department(ベトナム森林保護局)が共同で行った調査で明らかになった。この調査によると、商業野生動物ファームは野生個体群を減少させ、野生動物の違法取引にも手を貸しているという。
ベトナムでの調査によると、78ファームのうち42%が、野生個体群を保護するどころか、定期的に野生個体を捕獲していた。また、50%のファームが、初期群を野生個体のみ、もしくは野生個体と飼育個体から育成したと回答した。調査では、いくつかのファームと野生動物の違法取引のつながりも明らかとなった。このようなファームの所有者は野生動物を違法に中国国境まで輸送し、中国市場に輸出していると認めている。また、商業狩猟者からの飼育個体の購入、野生動物およびその製品の無許可での輸送および輸入といった違法行為も調査で確認された。
「商業野生動物ファームは、野生個体群を保護するどころか脅かしています。」とWCSのHunting and Wildlife Trade program(狩猟・野生動物貿易プログラム)のディレクター、Dr. Elizabeth L. Bennett(エリザベス.L.ベネット博士)は述べた。「この報告書の分析をみると、野生動物ファームが野生個体群に与える悪影響はその恩恵をはるかに上回っているようです」。
同調査によると、成長が早く繁殖率も高い種を飼育するファームであっても、野生動物を継続的に輸入することで保全活動に悪影響を与えているという。聞き取りを行ったファーム所有者の20%が、過去にファームから危険動物(ワニ、コブラ、パイソンなど)、雑種動物(スッポン)、外来種が脱走したことがあると回答している。
地域社会のニーズに関して言えば、商業野生動物ファームはタンパク源としての野生動物への農村の依存を軽減せず、食糧安全保障にも貢献しておらず、それどころか、都市の消費者に贅沢品を供給する役割を果たしている、と調査は結論付けている。
調査はベトナム北部、中部、南部の12省にある野生動物ファームを対象に実施された。研究者らはファーム所有者に聞き取りを行い、世界的に絶滅が危惧されている6種およびCITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約=ワシントン条約)の付属書Ⅰに掲載される5種を含む22種の飼育を報告している。CITESは野生動植物を国際取引から保護するために締結された政府間国際条約であり、その付属書Ⅰに掲載される種すべての国際取引を禁じている。
この調査結果に基づき、著者らは、国内で保護されている種およびIUCNのレッドリストに掲載される世界的に絶滅が危惧されている種をファームが飼育することを禁じ、野生動物保護法に違反したファーム所有者を厳しく処罰し、野生動物ファームで飼育される動物の入手元証明を牧場所有者の自己負担で行わせることを勧告している。
« フィリピン政府当局、タンザニア・ダルエスサラームから密輸された象牙をさらに押収 | トップページ | ハイテク化する密猟者 インド »
「35 レッドリスト 絶滅危惧種」カテゴリの記事
- 香港市場に出回る絶滅危惧種であるハンマーヘッドシャークのフカヒレは、主に東太平洋地域産であることが判明(2022.04.12)
- スリランカがゾウ保護のためプラスチック製品の輸入を禁止へ(2022.01.25)
- 陸棲脊椎動物の絶滅が加速していることが調査により判明(2021.12.14)
- キツネザル類のほぼ3分の1とタイセイヨウセミクジラが絶滅危惧IA類に―IUCNレッドリスト(2021.11.16)
- クロマグロ産卵場における致命的な漁具に対するトランプ政権による許可の差し止めを求め複数の団体が提訴(2021.11.02)
「19 アジア」カテゴリの記事
- 香港市場に出回る絶滅危惧種であるハンマーヘッドシャークのフカヒレは、主に東太平洋地域産であることが判明(2022.04.12)
- スリランカがゾウ保護のためプラスチック製品の輸入を禁止へ(2022.01.25)
- 絶滅寸前のヨーロッパウナギが香港のスーパーマーケットに流通(2021.10.26)
- ガラパゴス諸島の貴重な海洋生物を中国の巨大漁船団からどのように守るか(2021.09.21)
- 増大する中国漁船団により世界の海洋資源が枯渇(2021.09.14)
この記事へのコメントは終了しました。
« フィリピン政府当局、タンザニア・ダルエスサラームから密輸された象牙をさらに押収 | トップページ | ハイテク化する密猟者 インド »
コメント