野生動物の密猟により、動物散布植物の種子散布と個体群成長率が減少
『Ecological Society of America』2009より
JEDEDIAH F. BRODIE, OLGA E. HELMY, WARREN Y. BROCKELMAN,
AND JOHN L. MARON,
(翻訳協力:高橋富久子 校正協力:津田和泉)
熱帯に住む無数の脊椎動物たちが、乱獲によって脅かされている。この乱獲が、捕獲対象となる動物と関係のある捕獲対象外の生物にも、間接的な影響をもたらすのかどうかということは、重要な問題である。多くの熱帯地方の鳥や哺乳類は、植物の種子を運ぶ。その動物たちが森で乱獲されると、動物散布植物は、種子の散布が減るという被害をこうむる可能性がある。しかし、このような種子の散布の減少が、どのように木の本数や個体群動態に影響を与えるかは、明らかになっていない。
寿命の長い生物の繁殖条件は、多くの場合、非常に順応性が低い。実際に、種子の散布の個体数統計的な重要性は、議論の余地がある。私たちは、タイ北部にある季節的な森をもつ4つの国立公園で、狩猟圧の違いが、樹冠木であるチャンチンモドキの唯一の種子散布動物であるテナガザル、キョン、サンバーの相対存在数にどのような影響を与えるかを問うた。さらに、4つの国立公園で、散布動物の数が変化することによって、チャンチンモドキの種子の散布や、苗木の数にどのような影響が及ぶか定量化した。そして、(狩猟圧が最小の)Khao Yai(カオヤイ)国立公園で測定された個体数動態率に基づく、系統だった個体数モデルの作成に、これらのデータを使用し、狩猟圧の違いがチャンチンモドキの個体群成長と生存にどのような影響を与えるか調査した。
哺乳動物の個体数密度は、比較的高いKhao Yai(カオヤイ)国立公園から基本的にゼロであるDoi Suthep-Pui(ドイ・ステップイ)国立公園まで、公園ごとにかなり異なる。チャンチンモドキの種子の散布や苗木の数の水準は、確実に哺乳動物の個体数密度と同じ傾向をたどる。カオヤイ国立公園での密猟が他の公園と同じ水準まで増加したら、チャンチンモドキの個体群成長率は減少するだろうが、それはわずかであろう。チャンチンモドキが絶滅する可能性は実際にあるが、何十年も先かもしれない。最近進行している、多くの熱帯雨林に生息する脊椎動物の絶滅は、動物散布植物の絶滅という負債を背負わせるかもしれない。動物散布植物は、現在、豊富に存在するため、その脆弱性は隠されているのだ。
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