アフリカで絶滅危惧種の類人猿を脅かす観光客のウイルス
The Earth Times 2008年3月3日 ドイツ ハンブルク
ドイツの研究者によると、観光客の咳やくしゃみによってまき散らされるヒトのウイルスが、現在アフリカの絶滅危惧種であるゴリラやチンパンジーへの新たな脅威となっている。エコツーリズムは密猟に対抗する手段であると考えられている一方で、カレント・バイオロジー誌に発表された研究者の報告によると、世界中から観光客が殺到しているため、類人猿は自然免疫のない呼吸器系疾患の危険にさらされているという。
アメリカの先住民の多くが、ヨーロッパの入植者によって大西洋を越えて持ち込まれたはしかや天然痘やその他の伝染病に罹って死亡したのと全く同様に、現在、アフリカに生息するゴリラやチンパンジーは、遠くアジアやアルゼンチン起源のウイルス株に感染して死んでいることから、ヒトの保菌者にその責任があることがうかがえる。
ベルリンのロベルト・コッホ研究所、ライプチヒのマックス・プランク進化人類学研究所、コートジボワール共和国(the Centre Suisse des Recherches Scientifiques)のスイス科学研究センターの研究者による新たな調査により、ヒトから野生の類人猿へのウイルス感染を示す直接的な証拠が初めて確認された。
しかし同時に、研究や観光プロジェクトがチンパンジーの密猟を強力に抑止していることもこの調査から明らかになった。
この保護効果は、今までのところ、ヒトからの病気感染によるチンパンジーの実質的な死亡率を上回るものである。しかし、今ここで徹底した衛生対策を講じなければ、状況は手に負えなくなる可能性がある。
「私たちは類人猿を対象にした全ての観光地や研究現場において、厳重な衛生予防対策を実施することに対してさらに一層積極的にならなければならない」と、ベルリンのロベルト・コッホ研究所の野生生物疫学者で、この調査の筆頭著者であるFabian Leendertz氏は調査発表において述べた。
この調査は、行動生態学、獣医学、ウイルス学、集団生物学などを駆使した学際的アプローチによって、コートジボワール共和国のタイ国立公園において、二つのチンパンジーコミュニティーへのヒトからの病気感染を追跡したものであるが、タイ国立公園は1982年に研究者が初めてチンパンジーをヒトの存在に慣らし始めた所である。
さかのぼること1999年に相次いで発生した病気によって死亡したチンパンジーから採取した組織サンプルの検査では、二種類のヒト呼吸器系ウイルスに対して陽性反応が現れた。この二つのウイルスは、ヒトRSウイルスとヒトメタ肺炎ウイルスであり、発展途上国では幼児死亡の主な原因となっている。
チンパンジーから採取したウイルスは、遠く中国やアルゼンチンのヒト集団で同時に感染循環している世界的流行と近縁関係であったことから、近年、ヒトからチンパンジーへ伝ぱしたことが示唆された。
著者らは、臨床観察や人口学的分析も実施して、同様の呼吸器疾患の発生の起源を1986年まで遡ることができると推論した。
皮肉にも、観光客や科学研究者の存在自体が、類人猿の不法な狩猟や密猟の抑止力となっている。それゆえ悪意のないヒトは、死にいたらしめる恐れのあるウイルスを伝播する一方で、類人猿の繁栄と繁殖を助けてきたのである。
チンパンジーの調査現場とその近隣の観光地の双方において、チンパンジーの個体数密度は、密猟者との遭遇の可能性を考慮に入れて予測した密度よりもはるかに高かった。
「研究者の存在が地域の保護に極めて良い影響を与えていることが確認されたが、対処しなければならないいくつかの衛生上の問題が同時に発生している」と、タイ国立公園でこの調査プロジェクトを指揮し、共同著者でもあるライプチヒのマックス・プランク進化人類学研究所(MPI-EVA)のChristophe Boesch氏は述べている。
(翻訳協力:ジョーンズ有香・編集協力:松崎由美子)
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